静岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)5号 判決 1976年11月25日
原告 稲葉重夫 ほか三名
被告 熱海税務署長
訴訟代理人 小沢義彦 篠田学 杉山昇 三谷和久 ほか五名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判<省略>
第二原告らの請求原因<省略>
第三請求原因に対する被告の認否及び処分の根拠についての被告の主張
一(認否)<省略>
二(本件各処分の経緯)
1 原告稲葉重夫は、昭和四五年中に八幡野浜植林組合(以下「本件組合」と略称する。)から分配を受けた金八〇万五〇〇〇円について、原告田中義人・同稲葉源一郎・同平沢正太郎は、同じく本件組合からそれぞれ分配を受けた金九〇万五〇〇〇円について、租税特別措置法第三一条に規定する長期譲渡所得にあたるものとして、右各金員から同法第三一条の二第一項及び第三一条第二項による控除をなし、その所得金額を〇としたうえで、別紙第一の一記載の内容の確定申告をなした。
2 ところで、被告が調査したところ、本件組合は、後記のとおり人格のない社団であり、昭和四四年一二月二五日、その事業基盤としていた別紙第二物件目録記載の一の(1)ないし(8)の山林(以下「本件浜の(1)ないし(8)の山林という。)を太陽総業株式会社に代金二億〇三六八万三〇〇〇円で売却したため、昭和四五年三月一七日頃、その存立目的を失い解散したものであり、原告らは、本件組合の構成員として、前記売却代金をもつて主に構成された組合資産の分配金(以下「本件分配金」と略称する。)を受けたものであることが判明した。
3 そこで、被告は、本件分配金は、本件組合の解散に伴う清算分配金にあたるものと認定し、これを後記のとおり所得税法第三四条所定の一時所得に該当するものと認め、原告らの確定申告にかかる別紙第一の一の課税標準等及び税額等は別紙第一の二の課税標準等及び税額等であるとして、国税通則法第二四条に基き、その差額である確定納税額(増加した納税額)につき更正するとともに、同法第三二条及び第六五条の規定に基き、右更正により納付すべき税額を基礎として過少申告加算税を賦課決定し、本件各処分をなしたのである。
三 (本件各処分の適法性)
1 本件組合=人格のない社団
(一) 本件組合は、もと対島村八幡野植林組合と称し、伊東市八幡野の通称浜地区(昭和三〇年四月一日伊東市に編入される前の静岡県田方郡対島村八幡野)(以下単に「浜地区」と略称する。)に居住する住民により、旧対島村村有山林において植林・伐採・下草刈等の事業を営むことを目的として結成された団体であり、規約に基き代表者である組合長その他の役員をその構成員より選出し、資産を有し、右の事業等を行つてきたのである。
(二) 本件組合は、昭和三〇年旧対島村が伊東市に編入されることになつた際、かねてより植林等を行つてきた旧対島村村有林の一部である本件浜の(7)(8)の山林を同村から払下げを受けることになり、構成員に一口五〇〇〇円の出資を求めるなどして、昭和二九年三月一〇日その払下げを受けた(なお、これ以前の出資関係は明らかではない)。また、浜地区の青年団は、古くより本件浜の(1)ないし(6)の山林を若衆山として入会い管理してきたが、前記払下げがなされた昭和二九年三月一〇日、旧対島村から本件浜の(1)ないし(6)の山林の払下げを受け、当時の役員鈴木重道外八名の名義で所有権移転登記を経由して管理してきた。しかし、右青年団の管理能力がその後次第に失われていつたので、本件組合は、昭和四〇年四月一五日頃本件浜の(1)ないし(6)の山林を青年団から譲受けることになり、青年団に金一八万円程度を交付したうえ、同月一六日登記原因を無償譲渡として、当時の役員であつた岡徳一外八名の名義で所有権移転登記を経由した。
(三) 本件組合は、浜地区に転入した者及び分家等により別家を構えた者についても、総会の承認を得たうえ、一定の加入金を支払つて加入することができたが、他方、浜地区より他に転出する者については、当然その構成員たる資格を失うとされており(但し、例外的にその資格を失わない場合も存する。)、その解散前は二三七名という構成員を擁する団体であつた。なお、構成員たる資格は浜地区に居住する者について各戸一口とされており、構成員が死亡した場合には、浜地区にあつて家を継承する相続人一人のみが構成員の資格を相続することとされていた。
(四) 本件組合の組合長は、総会において構成員より選挙され、その任期は二年と定められていて、総会及び役員会の招集、組合の運営及び管理等のほか、組合を代表して対外的な任に当つていたものである。また、役員は、浜地区を構成する各部落から構成員より選出されたものであり、組合長と共に役員会を構成し、総会の招集日・下草刈日の決定、会計責任者の選出、会計監査等の事務を処理するとともに、本件浜の(1)ないし(8)の山林の売却等組合の重要事項については全員で委員会を構成し、その処理にあたる等の事務に従事していたものである。そして、本件組合の総会は毎年二月に開催され、一口毎に一個の議決権を有し、多数決により議案(組合長改選・決算報告の承認等)を決定することとされていた。なお、本件組合は、組合加入金、山林管理等のための共同作業への「出不足金」(作業に参加しない者から労務費に相当する金員を徴収するもの)等をもつて賄われていた。
(五) 以上のとおり、本件組合は、独立の組織を有し、そこには多数決の原理が行われ、構成員の変更に拘わらず存続し、植林・伐採・下草刈等の維持・管理を主たる事業活動としていたものであり、本件浜の(1)ないし(8)の山林や預貯金等の資産を有し、その管理及び総会・役員会の運営等団体としての主要な点が規約により定められていたのであるから、本件組合は、独立の存在を有する人格のない社団としての実体を有するものというべきである。
2 本件分配金=一時所得
(一) 本件組合は、昭和四五年三月一七日頃解散したが、解散に伴い、前期より繰越して保有していた繰越金二二二万〇五七七円に本件浜の(1)ないし(8)の山林の譲渡代金二億〇三六八万三〇〇〇円を加算した総資産を、本件組合の全構成員二三七名に分配することになり、本件組合の構成員として浜地区に居住した期間の長短等を基本として九つのランクに区分して配分したのであり、本件分配金は、いわゆる清算分配金に相当する。
(二) ところで、一時所得とは、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(所得税法第三四条)ところ、本件分配金は、本件組合の解散に伴い分配されたものであり、営利性・継続性に欠け、また構成員たる資格において受領したものであつて、労務その他の役務の対価及び資産の譲渡の対価としての性質を有しない一時的な所得であると認められるので、所得税法第三四条の一時所得に該当するものというべきである。
(三) なお、原告らは、本件分配金は譲渡所得に該当すると主張するけれども、個人がその有する資産を譲渡して得た所得は譲渡所得に該当するが、所得税法上法人とみなされる社団等(同法第四条参照)がその剰余金等を構成員に分配した場合には、その剰余金等を生ぜしめた原因(所得発生の源泉)がたとえ資産の譲渡によるものであつても、分配を受けた者の譲渡所得とはならない。即ち、この場合、譲渡による収入金額は、一旦人格のない社団等に帰属し(よつて、この時点では、構成員個人には所得は発生していない)、その後、構成員に分配された態様によつて所得の種類が定まるのである。本件組合が人格のない社団であり、それからの分配金がその解散に伴う清算金である以上、この分配金に起因する所得は、正に所得税法第三四条所定の一時所得に該当するのである。
3 一時所得の計算について
一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額及び特別控除額を控除した額(所得税法第三四条第二項・第三項)であり、総所得金額の内訳をなす課税一時所得金額は、更に右金額の二分の一となる(所得税法第二二条第二項第二号)。ところで、被告は、所得税法に従い、原告稲葉重夫については、その収入金額八〇万五〇〇〇円から収入を得るために支出した金額二万円(組合加入金)及び特別控除額三〇万円(昭和四六年法律第一八号改正前の所得税法第三四条第三項による)を控除し、課税一時所得金額を二四万二五〇〇円と、また原告田中義人・同稲葉源一郎及び同平沢正太郎については、各収入金額九〇万五〇〇〇円から収入を得るために支出した金額五〇〇〇円(昭和二九年における出資金)及び特別控除額(前同)を控除し、課税一時所得金額を三〇万円とそれぞれ算出したうえ、本件各処分をなしたのである。
四 (憲法第一四条等に違反するとの点について)
原告らは、被告は、本件組合と同一形態であつた八幡野岡植林組合の構成員や、その他伊東市内の他の部落民らが、いずれも、共同で管理していた山林を売却し、その売却金を各構成員に分配した際に、その分配金を譲渡所得として取り扱つていたにも拘わらず、ことさら、本件組合の構成員に対してのみ、本件分配金が譲渡所得ではなく一時所得に該当するものとして、本件各処分をなしたのであり、本件各処分は、憲法第一四条・国税通則法第一条に違反する無効なものである旨、主張する。
しかしながら、被告は、原告らが本件組合から受領した分配金について、前記第三の二・三で述べた根拠により一時所得に該当するものであると判断し、所得税法等の規定に従つて本件各処分をなしたのであり、ことさら被告らに対してのみ差別課税をしたものではない。
五 (禁反言・信義則に違反するとの点について)
原告らは、熱海税務署に問い合わせて、本件分配金が譲渡所得である旨の回答を受け、それに従つて確定申告をなしたにも拘わらず、被告は本件各処分をなしたのであり、本件各処分は、禁反言の原則ないし信義誠実の原則に違反する旨、主張する。
けれども、そもそも、当時、被告税務署長が、「本件分配金が譲渡所得である」旨の説明や回答をした事実がない。仮りに、本件分配金に関し電話等による問い合わせがあつて、被告税務署員が回答したことがあつても、質問者が本件組合の実体の全てを説明したうえで、その判断を求めたとも思われない(それは事実上不可能である)。右のような本件組合の実体を熟知しえないような状況下においては、被告税務署員に対して正確な結論を期待すること自体が不可能かつ不合理といわなければならず、従つて、本件組合の実体が全く不明の状態において、仮りに被告税務署員が原告ら主張のような回答をなし、被告がこれと異る課税処分をなしたとしても、何ら禁反言ないし信義則の法理に惇るところはない。
第四処分の根拠についての被告の主張に対する原告の認否及び反論
一 (認否)<省略>
二 (本件分配金=譲渡所得)
1 本件組合は、もと対島村八幡野浜植林組合と称し、ある事業目的の下に結成された団体ではなく、共有財産管理の必要上共同で植林・下草刈等をしてきただけであり、昭和三〇年対島村が伊東市に編入されることになつた際にも、かねてより植林等を行つてきた旧対島村村有林につき、一口五〇〇〇円の対価を拠出して本件組合の各構成員がその払下げを受けたものであり、本件組合それ自体に払下げを受けたものではなかつたのである。従つて、本件浜の(1)ないし(8)の山林やその立木等は、本件組合の構成員の共有であり、拠出した金員や提供した役務は、共有資産の取得やその育成管理に充当されていたのである。また、本件組合は、組合といつても組合員から独立した存在ではなく、組合員の個性が決定的な比重を占め、対外的な債権債務も組合員が直接権利義務の主体となる関係にあり、本件浜の(1)ないし(8)の山林の譲渡代金を分配するに際しても、分配基準として共有持分の割合に基いていたのである。
2 ところで、本件組合には、定款や会計規定もなく、組合事務所も存しなかつた。組合の運営は、慣習に従い、総会において全員一致で行うことが慣行化されていたのであり、定款に準拠して行われたことはなかつた。また、本件組合の役員は、組合長も含めて選挙で選出されるものではなく、浜地区を構成する四つの町会において、各町会ごとの寄合により、それぞれの役員(世話人)を決めていたし、組合長には、通常世話人の中から年長者が推されていたにすぎない。そして、組合長や役員は、報酬も支払われず、保存行為はできるが処分行為は総会でしか決められないのであり、従つて、役員は植林・下草刈等の「ふれ役」に過ぎず、組合長はその「ふれ頭」に過ぎないのであつて、「組合を総括し、総会及び役員会の招集、組合の運営・管理」などという権限は全くなかつた。更に、本件組合には役員会がなく、総会が唯一最高の意思決定機関として存在したのみであり、しかも、その総会は、多数決制ではなく、全ての事項が組合員の全員一致制によつて運営されていた。
3 ところで、人格のない社団といえるためには、団体としての組織を備え、多数決の原則による団体意思の決定が行われ、構成員の変更が規約に従つて容易に行われ、かつ構成員の変更にも拘わらず団体が存続し、組織としても構成員の個性から切り離された独自の存在がなければならないのである。しかるに、前述の如く、本件組合にあつては、定款もなく、組合員の個性が重視され、多数決原理による総会の運営も存しなかつたのであり、本件組合は、明らかに人格のない社団には該当せず、実体法上において権利義務の主体となりえないものであつて、本件浜の(1)ないし(8)の山林の所有者は、本件組合ではなく本件組合の構成員個人であつた。そして、原告らは、本件浜の(1)ないし(8)の山林に対して有する共有持分権に基き、本件組合から右山林の譲渡代金の分配を受けたのであるから、本件分配金は、一時所得ではなく譲渡所得に該当する。
三 (憲法第一四条等違反)
被告は、本件組合と同一の組織構成・財産の管理・運営をしていた八幡野岡植林組合の構成員が、昭和四三年七月二五日、その共有財産である別紙第二物件目録記載二の(1)ないし(3)の山林(立木を含む)(以下「本件岡の(1)ないし(3)の山林」という。)を小島量為株式会社外一名に売却した際、その売却金について組合員個人の譲渡所得として取り扱つており、また、伊東市の他の部落民が共同で管理していた財産を処分し、その売渡代金を分割して配分した場合にも、同様に譲渡所得として取り扱つていたにも拘らず、ことさら、原告ら本件組合の構成員に対してのみ、本件分配金が譲渡所得ではなく一時所得に該当するとして、本件各処分をなしたのである。従つて、本件各処分は、憲法第一四条の法の下の平等、国税通則法第一条の税務行政の公正な運営の原則に違反して無効であり、少くとも取消しを免れない。
四 (禁反言・信義則違反)
本件組合では、本件浜の(1)ないし(8)の山林の売却代金を組合員に配布する直前の昭和四四年一二月上旬頃、熱海税務署田口資産税課係長らに問い合わせ、更に、その後においても、確定申告までの間に右田口係長らに問い合わせたうえ、いずれも本件分配金は譲渡所得に該当する旨の回答を受けたので、原告らは、それに従つて確定申告をなしたのである。しかるに、被告は、本件分配金が一時所得であるとして、行政においても認められる禁反言の原則ないし信義誠実の原則に違反して本件各処分をなしたのであり、本件各処分は無効である。
第五証拠<省略>
理由
一 (当事者間で争いのない事実等)
請求原因一・二記載の事実、及び処分の根拠についての被告の主張二の1記載の事実、並びに、本件組合が、昭和四四年一二月二五日、本件浜の(1)ないし(8)の山林を太陽総業株式会社に代金二億〇三六八万三〇〇〇円で売却したこと、原告らの昭和四五年分所得税の課税標準である不動産所得金額・給与所得金額・山林所得金額及び所得控除金額は、別紙第一の二の各該当欄記載のとおりであること、以上の事実は当事者間で争いがなく、処分の根拠に関する被告の主張三の3記載の事実は、原告らが明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。
二 (本件における争点について)
1 ところで、被告は、本件組合は、人格のない社団であり、昭和四四年一二月二五日、その事業基盤としていた本件浜の(1)ないし(8)の山林を太陽総業株式会社に代金二億〇三六八万三〇〇〇円で売却したため、昭和四五年三月一七日頃、その存立目的を失い解散したものであり、原告らは、本件組合の構成員として、前記売却代金をもつて主に構成された組合資産の分配を受けたものであつて、本件分配金は、本件組合の解散に伴う清算分配金にあたり、所得税法第三四条所定の一時所得に該当する旨、主張する。これに対して、原告らは、本件組合は、組合といつても組合員から独立した存在ではなく、組合員の個性が決定的な比重を占め、明らかに人格のない社団には該当せず、対外的な債権債務も個々の組合員が直接権利義務の主体となるのであつて、本件組合自体は何ら権利義務の主体たりえないものであり、本件浜の(1)ないし(8)の山林の所有者も、本件組合ではなく本件組合の構成員個人であり、原告らは、右山林に対して有する共有持分権に基き、本件組合から右山林の譲渡代金の分配を受けたものであるから、本件分配金は、一時所得ではなく譲渡所得に該当する旨、反論する。
2 思うに、人格のない社団といいうるためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にも拘わらず、団体そのものが存続し、その組織において代表の方法・総会の運営・財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要し、しかして、このような人格のない社団がその名においてその代表者により取得した資産は、構成員に総有的に帰属するものと解すべきである(最高判昭三九・一〇・一五民集一八・八・一六七一参照)。従つて、本件分配金が一時所得(被告の主張)か譲渡所得(原告の主張)かは、・本件組合が人格のない社団といえるかどうか、換言すれば、本件の(1)ないし(8)の山林は本件組合の構成員に総有的に帰属していたのか(被告の主張)、それとも、本件組合の構成員が本件浜の(1)ないし(8)の山林に対して共有持分権を有していたのか(原告の主張)にかかつているといえよう。
3 なお、人格のない社団の資産が構成員に総有的に帰属するとは、その資産の利用収益権は各構成員に属するが、各構成員には持分権がなく、従つて分割請求権も有せず、その資産の管理処分は、定款等の定めるところにより総会の議決に従つて行われるものである。これに対して、共有の場合は、各共有者が目的物に対する利用収益権と管理処分権の結合した持分権を有し、これを自由に処分することもできるし(持分処分の自由)、また何時でも共有関係を終止して単独所有に移行する権限(分割請求権)を有するのである。ちなみに、総有は、村落共同体や入会団体のような慣習に基く前近代的な所有形態にその典型を示すものであり、村落共同体の所有においては管理権能が専ら村落そのものに帰属し、村落共同体を規律する社会規範によつて規律され、収益権能だけが各村落住民に分属していたが、その収益権能に対する部落の統制も非常に強く、各村落住民は、村落住民たる資格を取得することによつて当然に収益権能を取得し、その資格を失うことによつて当然収益権能を喪失するのであり、村落住民の有する収益権能は、村落住民たる資格を離れて独立の財産権たる性質を有しないものとされていた。
三 (本件組合の実体と解散に至るまでの経緯等)
そこで、次に、本件組合が人格のない社団といえるかどうか、また、本件浜の(1)ないし(8)の山林が本件組合の構成員に共有的に帰属していたのか、それとも総有的に帰属していたのかを判断するために、まず、本件組合の実体及び解散に至るまでの経緯等について考察するに、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 本件組合は、もと対島村八幡野浜植林組合と称し、大正時代には既に結成されていた団体であつて、静岡県伊東市に編入される前の静岡県田方郡対島村八幡野の浜町区に居住する住民を構成員とし、旧対島村村有の山林において植林・伐採・下草刈等を営むことを目的としていた。
2 ところで、旧対島村が昭和三〇年四月一日に静岡県伊東市に編入されることとなつたが、このことが契機となつて、本件組合は、かねてより植林等を行なつてきた旧対島村村有林の一部である本件浜の(7)(8)の山林の払下げを受けることになり、本件組合の構成員から一人当り五〇〇〇円の出資を求めるなどして、昭和二九年三月一〇日金四五万八一〇〇円でその払下げを受け、昭和三〇年三月二五日当時の役員であつた稲葉孫吉外一三名の名義で登記をなし、昭和三九年一〇月一五日には当時の役員であつた稲葉恒市外八名の名義に変更する旨の登記をなした。また、浜地区の青年団は、古くより、旧対島村村有林の一部である本件浜の(1)ないし(6)の山林を若衆山として入会い管理してきたが、右払下げがなされた昭和二九年三月一〇日頃、旧対島村から本件浜の(1)ないし(6)の山林の払下げを受け、昭和三〇年三月二三日当時の役員鈴木重道外八名の名義で所有権移転登記を経由して管理してきた。けれども、右青年団の管理能力が次第に失われていつたので、本件組合は、昭和四〇年四月一五日頃本件浜の(1)ないし(6)の山林を青年団から譲り受けることになり、本件組合が保管していた資金の中から金一八万円程度を青年団に交付したうえ、同月一六日、当時の役員であつた岡徳一外八名の名義で所有権移転登記を経由した。
3 本件組合は、浜地区に転入した者及び分家等により別家を構えた者についても、一定期間以上浜地区に居住しているという要件を満たせば、総会の承認を得たうえ、一定の加入金(昭和三三年・三四年加入者金二万円、昭和三六年加入者金四万円)を支払つて加入することができたが、他方、浜地区より他に転出する者については、当然その構成員たる資格を失うとされており、この場合、出資金等の払戻しはなく、権利を放棄してもらうことになつていた(但し、昭和四〇年頃から、浜地区から伊東市へ転出した者については、例外的に構成員たる資格を認めることとなつたが、いずれにせよ、伊東市外に転出した者については、一人の例外もなく、当然に本件組合の構成員たる資格を失うこととされていた)。そのうえ、本件組合では、組合の構成員たる資格を他人に譲渡することも禁止されていた。なお、本件組合の構成員たる資格は、浜地区に居住する者について各戸一口とされており、構成員が死亡した場合には、浜地区にあつて家を継承する相続人のみが、構成員たる資格を相続できるものとされていた。
4 本件組合の役員は、浜地区を構成する三つの町(東町・上町・下町)内の各構成員間で互選された者(昭和四〇年頃は各町内より三名で合計九名)が、また、組合長や会計責任者には、更に役員間で互選された者がいずれも就任し、そのうえ、組合長は、総会で全構成員の承認を得ることが必要であつた。そして、本件組合の組合長及び役員の任期は二年と定められており、組合長は、総会及び役員会の招集、組合の運営及び管理等のほか、組合を代表して対外的な任に当つていたものであり、役員は、組合長とともに役員会を構成し、総会の招集日・下草刈日の決定、会計責任者の選任等の事務を処理し、会計責任者は、会計帳簿や組合員名簿を保管し、会計事務や組合員名簿の整理等に携つた。そして、本件組合の総会は毎年二月に開催され、構成員一人につき一個の議決権を有し、多数決により議案(組合長の改選・決算報告の承認等)を決定していた。なお、本件組合は、組合加入金、山林の下草刈等の共同作業への「出不足金」(作業に参加しない者から労務費に相当する金員を徴収するもの)等をもつて賄われていた。
5 ところで、本件組合には、古くから、成文化されたものであるかどうかは明らかではないが、少くとも慣習として定款ないしは規約に相当するものが存在し、組合の目的・構成(組合の構成員や役員及び組合長に関する事項)・運営方法等に関する事項が定められ、本件組合はこれに準拠して運営されていた。
6 本件組合は、総会の決議をえたうえ、本件浜の(1)ないし(8)の山林を売却して解散することになり、昭和四四年一二月は売却処理委員会を設け、組合長稲葉武夫が処理委員長に就任したほか、構成員から選任された約二〇名ほどの者が処理委員(なお、役員は全員処理委員になつた)として右山林の売却等の事務に携わり、同月二五日、右山林を太陽総業株式会社に代金二億〇三六八万三〇〇〇円で売却した。そして、本件組合は昭和四五年三月一七日頃解散したのであるが、右解散に伴い、前記より繰越して保有していた繰越金二二二万〇五七七円に本件浜の(1)ないし(8)の山林の譲渡代金を加算した二億〇五九〇万三五七七円から、売却処理費・解散に伴う総会費・小学校等への寄付金・旧組合員名簿に記載されていた人々への包金等を控除した二億〇二三五万円を、本件組合の全構成員二三七名に分配することになり、本件組合の構成員として浜地区に居住した期間の長短等を基準として、最高九〇万五〇〇〇円(一五八人)から最低一七万七五〇〇円(一人)までの九つのランクに区分して配分したのである。なお、本件組合の構成員として本件分配金を受領した右二三七名の者は、全員伊東市内に居住している者であつた。
7 ちなみに、本件浜の(7)(8)の山林を旧対島村から払下げを受けた時の土地売買契約書<証拠省略>には、買受人として「対島村八幡野植林組合代表者稲葉弥八」と記載され、当時の組合長が代表者として調印して同契約を締結し、本件浜の(1)ないし(8)の山林を太陽総業株式会社に売渡した際の土地売買契約書<証拠省略>には、売主として「八幡野浜植林組合処理委員会委員長稲葉武夫」と記載され、当時の組合長で処理委員長がこれに調印して同契約を締結しており、また、本件組合の保管金は、「八幡野浜植林組合」名義で預金されていた。
四 (本件分配金=譲渡所得)
1 前記三で認定したところによれば、本件組合は、八幡野浜植林組合と称し、浜地区に居住する住民を構成員とし、山林の植林・伐採・下草刈等を営むことを目的とする団体であつて、古くから、少くとも慣習として定款ないしは規約に相当するものが存在し、組合の目的・構成・運営方法等に関する事項が定められ、これに準拠して運営されていたこと、本件組合の役員は、浜地区を構成する三つの町内の各構成員から選出され、組合長や会計責任者には、役員の中から互選された者がなり、特に、組合長は、更に、総会で構成員の承認を得ることが必要であること、組合長及び役員の任期は二年で、組合長は、総会及び役員会の招集、組合の運営及び管理等のほか、組合を代表して対外的な任に当り、役員は、組合長とともに役員会を構成し、総会の招集日・下草刈日の決定、会計責任者の選任等の事務を処理し、会計責任者は、会計帳簿や組合員名簿を保管し、会計事務や組合員名簿の整理等の事務に携つたこと、本件組合の総会は毎年一回は必ず開催され、構成員一人につき一個の議決権を有し、組合長の改選・決算報告の承認等の議案を多数決で議決していたこと、本件組合の構成員たる資格は、浜地区に居住する者について各戸一口とされ、構成員が死亡した場合には、浜地区で家を継承する者一人が構成員の資格を相続することとされており、浜地区に転入した者及び分家等により別家を構えた者については、一定期間以上浜地区に居住しているという要件を満たせば、総会の承認を得たうえ一定の加入金を支払つて本件組合に加入することができたが、他方、浜地区より他に転出した者については、原則として当然構成員たる資格を失い、この場合、出資金の払戻しもないとされていたうえ、本件組合では、組合の構成員たる資格を他人に譲渡することも禁止されていたこと、本件組合は、本件浜の(7)(8)の山林の払下げや本件浜の(1)ないし(8)の山林の譲渡に際し、いずれも組合名義で当時の組合長が右契約に調印していたうえ、組合の保管金も組合名義で預金していたこと、本件分配金は、本件組合の構成員として浜地区に居住していた期間の長短等を基準とし、九つのランクに区分して配分されたものであること、以上のとおりである。
2 従つて、右事実によれば、本件組合は、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にも拘わらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法・総会の運営・財産の管理等団体としての主要な点が確定しており、従つて、本件組合は人格のない社団と解すべきであり、また、本件組合の構成員は、組合資産に対する収益権は有するが、持分権や分割請求権は有せず、組合資産の管理処分は、古くから慣習として存在していた規約等の定めるところにより、総会の議決に従つて行われていたものであり、従つて、本件浜の(1)ないし(8)の山林は、本件組合の構成員に総有的に帰属していたものと解すべきである。なお、本件組合は、浜地区に居住する住民を構成員とし、浜地区より他へ転出すれば当然に構成員たる資格を喪失するのであり、各構成員の有する収益権能は、浜地区に居住する住民たる資格を離れて独立の財産権たる性質を有しないものとされていることから、本件組合は、前述(二の3)の村落共同体に類似していたものといえよう。
3 ところで、一時所得とは、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(所得税法第三四条)ところ、前記三の認定事実及び四の2の判断によれば、本件分配金は、人格のない社団である本件組合の解散に伴い分配されたいわゆる清算分配金に相当するものであり、営利性・継続性に欠け、また、本件組合の構成員たる資格において受領したものであつて、構成員自身の労務その他の役務や資産の譲渡の対価としての性質を有しない一時的な所得であると認められるので、所得税法第三四条の一時所得に該当するものというべきである。なお、付言するに、被告も指摘する如く、個人がその有する資産を譲渡して得た所得は譲渡所得に該当するが、所得税法上法人とみなされる人格のない社団(同法第四条参照)がその剰余金等を構成員に分配した場合には、その剰余金等を生ぜしめた原因がたとえ資産の譲渡によるものであつても、分配を受けた者の譲渡所得とはならないのであり、この場合、譲渡による収入金額は、一旦人格のない社団に帰属し、その後、構成員に分配された態様によつて所得の種類が決まると解すべきである。これを本件についてみるに、前述の如く、本件組合は人格のない社団であり、本件分配金が本件組合の解散に伴う清算分配金である以上、本件分配金に起因する所得は、やはり所得税法第三四条の一時所得に該当するものといわなければならない。
五 (本件各処分と憲法第一四条等について)
1 原告らは、被告は、本件組合と同一の形態であつた八幡野岡植林組合の構成員や、その他伊東市内の他の部落民らが、いずれも共同で管理していた山林を売却し、その売却金を各構成員に分配した際、その分配金を譲渡所得として取り扱つていたにも拘らず、ことさら、本件組合の構成員に対してのみ、本件分配金が譲渡所得ではなく一時所得に該当するものとして、本件各処分をなしたのであり、本件各処分は、憲法第一四条の法の下の平等、国税通則法第一条の税務行政の公正な運営の原則に違反する旨、主張する。
2 そこで、まず、原告らが主張する八幡野岡植林組合の実態等について考察するに、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 静岡県伊東市に編入される前の静岡県田方郡対島村八幡野の通称岡地区(以下「岡地区」と略称する。)に居住する住民は、古くから、対島村村有の本件岡の(1)ないし(3)の山林を借り受け、共同して、植林・伐採・下草刈等の作業に従事してきた。
(二) ところが、旧対島村が昭和三〇年四月一日に静岡県伊東市に編入されることになり、このことが契機となつて、岡地区に居住する住民は、昭和三〇年三月五日、対島村から本件岡の(1)ないし(3)の山林の払下げを受けることになり、本件岡の(1)の山林には相良久恵他四九名の共有の登記をなし、本件岡の(2)(3)の山林には、相良久恵の単独所有の登記をなした後、昭和三四年九月八日佐藤宇市他四三名の共有の登記に名義変更をなした。ちなみに、本件岡の(1)ないし(3)の山林の共有者として登記簿上名を連ねていた者は、右(1)ないし(3)の山林の全てに共有者となつていた者と、右(1)の山林のみに共有者となつていた者、それに右(2)(3)の山林の共有者となつていた者の三種類に分類できた。
(三) ところで、本件岡の(1)ないし(3)の山林の共有者として登記されていた者は、八幡野岡植林組合という名称のもとに、共同して山林の植林・下草刈等の作業に携わつてきたが、岡地区に居住する住民であつても、右山林の共有者として登記されていなかつた者は、八幡野岡植林組合の構成員とはなれず、従つて、当然のことながら、植林・下草刈等の共同作業にも参加しなかつた。
(四) なお、八幡野岡植林組合には、組合長以下役員もいたが、役員の権限や選出方法・任期等についての明確な取り決めはなく、また、本件岡の(1)ないし(3)の山林の売却問題が持ち上がつた時以外は、総会も殆んど開かれていなかつた。
(五) ところで、八幡野岡植林組合では、構成員が岡地区より他へ転出しても構成員たる資格を失わないとし、また、構成員が死亡した場合、岡地区以外に居住する者が相続人として構成員たる資格を相続することも黙認していたし、更に、構成員が構成員たる資格を第三者に譲渡することも事実上禁止することができなかつたので、本件岡の(1)ないし(3)の土地が売却された昭和四三年頃には、八幡野岡植林組合の構成員のなかには、東京都や神奈川県等に居住する者や、八幡野漁業協同組合のような法人、それに自己の持分を抵当に入れる者まで現れて、右山林の登記簿には、持分権の移転登記や抵当権設定登記までなされていた。
(六) 八幡野岡植林組合は、昭和四三年七月二五日、本件岡の(1)ないし(3)の山林及びその地上の立木等を、小島量為株式会社及び小島通雅に金五〇〇〇万円で売却し、右売却金を、右山林の共有者として登記されていた者にのみ分配した。そして、右分配金は三ランクに分けられ、本件岡の(1)ないし(3)の山林の共有者として登記されていた者は一〇七万四三〇一円(乙第二四・第二五号証の各一丁目の新旧配分金欄に記載されている金額の合計額)、本件岡の(1)の山林の共有者として登記されていた者は五九万〇三一一円(乙第二四・第二五号証の各三丁目の新配分金欄に記載されている金額の合計額)、本件岡の(2)(3)の山林の共有者として登記されていた者は金四八万三九九〇円(乙第二四・第二五号証の各二丁目の旧配分金欄に記載されている金額の合計額)であり、岡地区での居住の有無や期間の長短等は、全く考慮に入れられていなかつた。
(七) 八幡野岡植林組合の構成員は、右配分金を譲渡所得として確定申告をなし、被告は右申告をいずれも是認した。
3 次に、原告らが主張する伊東市内の他の部落民らが共同で管理していた山林の管理の形態等について考察するに、<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。
(一) 静岡県伊東市に編入される前の静岡県田方郡対島村富戸に居住する住民は、昭和二二年八月一一日、対島村から別紙第二物件目録記載三・四の山林の払下げを受け、同富戸の郷戸町の住民が同目録記載の三の山林(以下「本件郷戸町の山林」という。)につき、同富戸の西町の住民が同目録記載四の山林(以下「本件西町の山林」という。)につき、いずれも共同して植林・伐採・下草刈等の作業に従事してきた。
(二) 郷戸町や西町の住民は、本件郷戸町の山林や西町の山林に対して有する権利を第三者に譲渡したり担保に入れることもできたし、また、郷戸町や西町から他へ転出しても、右山林に対して有する権利を失うことはなかつた。
(三) 本件郷戸町の山林は、昭和四六年二月二日株式会社新狭山商事に金四九二五万円で売却され、また本件西町の山林は、昭和四五年一〇月九日株式会社川奈ホテルに金七四六七万円で売却され、いずれも右各山林の権利者に右売却金が分配されたが、郷戸町や西町に居住していない権利者にもその分配がなされた。ちなみに、本件郷戸町の山林の売買契約書(甲第九号証)には、売主は「郷戸町共有財産権利者」である旨記載されているし、また、本件西町の山林の売買契約書(甲第一五号証)には、売主は右山林の分配金を受領した五七名の者である旨(同号証の第四条)記載されている。
(四) なお、右分配金を受領した郷戸町や西町の住民は、右分配金を譲渡所得として確定申告をなし、被告は右申告をいずれも是認した。
4 前記五の2の認定事実によれば、八幡野岡植林組合は、役員の権限や選出方法・任期等についての明確な定めがなく、総会も殆んど開かれていなかつたこと、八幡野岡植林組合では、構成員が岡地区より他へ転出しても構成員たる資格を失わないとし、また、構成員が死亡した場合、岡地区以外に居住する者が相続人として構成員たる資格を相続することも黙認していたし、更に、構成員が構成員たる資格を第三者に譲渡することも事実上禁止することができなかつたこと、本件岡の(1)ないし(3)の山林の登記簿には、八幡野岡植林組合の構成員全員が共有持分権者として登記されており、共有持分権の移転登記や抵当権設定登記までなされていたこと、本件岡の(1)ないし(3)の山林及びその地上の立木等の売却金は、右山林の登記簿に記載されている共有持分を基準にして分配されていたこと、以上のとおりである。従つて、右事実によれば、八幡野岡植林組合は、未だ団体としての組織は整つておらず、総会も殆んど開催されていなかつたのであるから、人格のない社団とまでは解することができないし、また、八幡野岡植林組合の構成員は、本件岡の(1)ないし(3)の山林に対して、個々の共有持分権を有していたものと解すべきである。
また、前記五の3の認定事実によれば、郷戸町や西町の住民は本件郷戸町の山林や西町の山林に対して有する権利を第三者に譲渡したり担保に入れることもできたし、郷戸町や西町から他へ転出しても、右山林に対して有する権利を失わなかつたこと、本件郷戸町の山林の売買契約書には、売主が「郷戸町共有財産権利者」である旨記載され、また、本件西町の山林の売買契約書には、売主が右山林の分配金を受領した五七名である旨記載されていること、以上のとおりである。従つて、右事実のみでは、本件郷戸町の山林や西町の山林が、右各山林の譲渡代金を受領した各権利者の総有に属していたのか、それとも共有に属していたのかにつき、未だ明確な結論を下しがたいが、少くとも、共有的なものではなかつたかと、推測しうることは確かである。
5 以上のように、八幡野岡植林組合の構成員や、郷戸町・西町の住民が、共同管理していた山林に対して有していた権利は、いずれも、本件組合の構成員が本件浜の(1)ないし(8)の山林に対して有していた権利とは、法律的な観点から考察した場合、その態様が異なるものであり、被告が、ことさら、本件組合の構成員に対してのみ、本件分配金が譲渡所得ではなく一時所得に該当するものとして、本件各処分をなしたのではないことは明らかであり、本件各処分は、何ら、憲法第一四条の法の下の平等・国税通則法第一条の税務行政の公正な運営の原則に違反するものではない。
六 (本件各処分と禁反言・信義則違反について)
1 原告らは、熱海税務署に問い合わせて、本件分配金が譲渡所得である旨の回答を受け、それに従つて確定申告をなしたにも拘わらず、被告は本件処分をなしたのであり、本件各処分は禁反言の原則ないし信義誠実の原則に反する旨主張するのに対し、被告は、そのような回答をなした事実はない旨、反論する。
2 そこで、まず、原告らが主張するような事実関係の有無について考察するに、<証拠省略>によれば、本件組合の構成員で売却処理委員会の構成員で売却処理委員会の副委員長であつた太田島太郎は、昭和四四年一二月上旬頃、電話で、熱海税務署所得税課資産税係長の田口公司に対し、本件組合は八幡野岡植林組合と全く同じ形態である旨説明したうえで、本件分配金が八幡野岡植林組合の場合と同じように譲渡所得に該当するものであるかどうか問い合わせ、田口資産税係長から本件分配金は譲渡所得に該当する旨の回答を受けたこと、その所要時間は全部で一〇分位であつたこと、以上の事実が認められる。証人田口公司は、本件分配金が譲渡所得に該当する旨の回答をなした事実はない旨証言するが、前記太田島太郎の証言、並びに同人が被告税務署員に対して供述した内容を録取した書面である<証拠省略>の質問応答書(昭和四六年二月二三日作成)に、「電話によつて税務署へ聞いたことがあるが、この関係については岡の植林組合と同形態であると申し出た。税務署側は譲渡だと言つてくれた。」旨記載されていることから、右田口証人の証言は採用できない。
3 右事実によれば、太田島太郎は、本件組合は八幡野岡植林組合と全く同じ形態である旨、誤つた説明を加えたうえで問い合わせをなしているのであり、このような誤つた前提の下においては、田口資産税係長に対して正確な結論を期待すること自体が不可能であるといわなければならず、しかも、<証拠省略>によれば、熱海税務署の職員か、昭和四六年三月一五日の確定申告前に、本件組合の構成員を商工会議所に集めて、本件分配金を一時所得として申告するようにと行政指導をなしたことが認められ、以上の事実に照らして、本件各処分(過少申告加算税の賦課決定処分も含め)が禁反言の原則ないし信義誠実の原則に違反するとは認められない。
七 (結論)
以上の認定事実及び判断によれば、原告らの昭和四五年分所得税の課税標準等及び税額等は別紙第一の二記載のとおりであり、従つて、別紙第一の四記載のとおりの確定納税額となつて、本件各処分には何ら違法な点は存しないのであるから、原告らの本件各処分の取消しを求める請求は全て理由がなく、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条・民事訴訟法第八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判官 松岡登 人見泰碩 紙浦健二)
別紙<省略>